「最初会ったその時から分かっていたが、あえて今言うな?」
「――なんだ」
 ようやく長丁場の捜査が一段落ついて、一般的におやつの時間と称される頃合いにやっと昼食にありつけた。食堂はがらんとしており、二人の声……といってもガイの明るい声がよく響いた。
「お前って友達いないだろ」
「藪から棒だな」
「おお、いい反応」
 ぴゅう、と口笛を吹かし、ガイはニカッと笑った。無視すると思ったが、アリオスは特に感情を波立てることもなく返事をした。これは、ガイにとって大きな進歩である。
「俺としては、今後も同じチームで苦難を共にする仲間のことは相棒だと思いたいし、信頼したいと思ってるんだ」
「真っ当な意見だな」
 思案顔で頷くアリオスの鼻先を指でぐい、とガイは抑える。顔が少し仰け反ったアリオスは不機嫌そうにガイの手を払い、「何をする」と声を尖らせた。
「なに他人顔しちゃってんだよアリオス君? 今、俺と君のお話をしてるんだよ、分かるかね?」
「似てないぞ」
「おっ、その調子その調子」
 レポートの文面に細々煩い上司の真似も、最初はスルーされたものの一つ。
「まったく、アリオス君ときたらなかなか会話しないんだもん、困ったものだわ〜」
 これは厨房にいる係りのおばさんの真似。少し離れたところから「ガイちゃん、またやってるの〜?」と聞こえてきて、ガイはへらっと愛想笑いで誤魔化した。
「まずお前の態度が友好的では無かっただろう」
 そういている間に、やっとアリオスの反論がやって来た。間を繋ぐことは、ガイにとって面倒な作業である。何もしない、ということが厄介なのだ。目の前に座る同僚の間は、今でも計りかねることがある。
「えー? そうだっけー?」
「しらばっくれるな。デカイだの、ムカつくだの、声が小さいだの、違う世界から来た人間なのかとまで言われた」
「そりゃあお前、俺って正直だから仕方ないだろ?」
「…………」
 あからさまにムッとしたことは空気で分かった。ガイは、しばらくして気づいたのだ。このアリオスという男は、冷静沈着なようで血気盛んなところがある。そう、ガイ自身と同じくらいに。
「ふん、ムカついたなら訓練でもしてスカッとするか」
「上等だ」
 二人は同時に椅子から立ち上がる。
「おっ、今、なかなかいいシンクロだったな」
「……?」
 怪訝な顔をするアリオスにガイは笑った。
「お前と気が合う瞬間が来るなんて、ほとんど俺の努力の賜物じゃんか」
「要らん努力だ」
「まったくだ!」
 得物を握り締め、二人は颯爽と訓練室に向かうのであった。




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