状況が少し落ち着けば、真っ先に向かおうと思っていた。
そして、意外な先客を見つけてセシルは「え……」と小さく声を漏らした。目的地……即ちガイの墓前に立っていたのは、キーアとシズクだった。
「二人だけで此処に?」
首を傾げつつ、柔らかく声をかけると二人はセシルに気づき、深々と頭を下げた。畏まった様子にセシルは思わず足を止める。
「ガイさんにお花を、ありがとう」
白を基調とした花束に視線を落とすと、ふわりと微笑む。そよ風と共に運ばれる香りは凛と澄んでいた。しかし、セシルの言葉を受けてもどこと無く二人の表情は固かった。その理由の一つを、少なくともセシルは察していた。少女の瞳に宿ったものが、おそらく罪悪感であると感じたから。
「――話を、聞きました。大まかにですが……」
「うん、私も聞いたわ」
「あの、父が……」
気遣わしげに隣に立つキーアがシズクの肩を支える。少女が何を言わんとしているのか、セシルには既に痛いほど伝わった。どう言葉を返せば、この少女の痛みを和らげることができるか……セシルは咄嗟に言葉が出ない。
「うん、ガイさんもアリオスさんも、きっと頑固者だから。起こったことは哀しいけれど……そこに立ち入ることは、私には出来ないのよね」
ガイにも、アリオスにも。きっと曲げられないものがあった。迷いも、きっと……あった。だから、クロスベルの英雄と呼ばれた男は残された結果のまま貫きとおすしかなかったのだろう。それらは全て、セシルの推測に過ぎないことも含めて。
「いつか伴侶になる約束をしていた私でも、シズクちゃんでも……立ち入れさせないものが、あったんでしょうね。じゃなきゃ、ガイさんは独りで戦わないもの」
「――父は、いつも独りで戦っているように見えます……」
吸い込まれそうな黒真珠の瞳に光を湛えながら、シズクは淋しげに呟く。キーアはじっと黙って、二人のやり取りに耳を傾けていた。
「大丈夫。これからは、ロイドたちも一緒に戦うでしょうから……きっと独りで戦わせなんてしないわ」
男は背中で語るもの、なんて誰が言い出したのだろう。背中を見ているだけでは、その表情など窺えない。察することにだって、限界はあるのだ。恋人でも、家族でも……別の存在である限り。
「ありがとうございます、セシルさん……」
また、シズクは深く頭を下げた。今度はにっこり、セシルも応えるように頭を下げる。
「こちらこそ」
それからひと言、二言と他愛のない会話を交わして、二人は恋人の逢瀬に気を遣ったのか「もう帰ります」と告げた。
「そう、また会いましょうね」
「あの……セシルお姉ちゃん?」
「なぁに、キーアちゃん?」
キーアは恐る恐る、セシルの眼を覗きこむ。
「もし……もし、ガイさんとまた、会えるとしたら……別のカタチで、世界で。会えるとしたら、会いたい?」
唐突な質問だった。一瞬セシルはきょとんとして、すぐにふふっと笑った。
「それも素敵ね」
「じゃあ……」
キーアが口を開く前に、セシルはそっと胸に手を当てた。その仕草は祈りのようで、キーアとシズクは自然と見入った。
「でも、私のここにあるのはあの時、この世界で精一杯生きたガイさんとの思い出。時間はね、全ての人に与えられる贈り物なの……。これだけは、かけがえないものよ」
セシルは二人の少女に眼差しを送る。
「とても……大変な時代だけれど。精一杯、大切な時間を生きましょう……?」
「はい……!」
「――うん!」
キーアは腕でごしごし目元を擦ってから、太陽のような笑顔を浮かべた。
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